『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』を観てきました。
今日封切の映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』を観てきました。
全編を通して、まるで一篇の美しい詩を読んでいるかのような、一枚の美しい絵画を見ているかのような・・・そんな気持ちにさせてくれた作品でした。
フランスの片田舎、究極に無口で人付き合いが下手すぎる郵便配達員のシュヴァルが、約33年もの歳月をかけて愛娘のために宮殿を建てる・・・というストーリーですが、実はこの娘は2番目の奥さんとの間にできた子供。ストーリー冒頭で最初の奥さんがなくなり、息子はどこぞへと引き取られ・・・と結構序盤からとばしてきます。
この映画、シュヴァルの身内(最初の奥さん→実の娘→実の息子→妻)が次々と亡くなっていく悲しさはあるけれど、それ以外に大きな起伏というか、アップダウンがある作品ではありません。だからこそ、ラストも静かに、とても幻想的で美しく・・・最後の10秒でシュヴァルが人生で積み重ねてきたものが押し寄せて泣ける作品でした。
個人的に一番泣けたのは、最初の奥さんがなくなった時にどこぞへと引き取られた息子が、成長する折に触れて父親を訪ねて成長していく様子。こっそりお父さんの記事を集めていたり、不器用な父との関係を深めようとコミュニケーションを図ってくれる素晴らしい息子さんですが、まさか父より先に逝くとは・・・。直前まで一緒に並んで宮殿でポストカード用の写真を撮ったりしていたのに。息子の死を知って壁に泣き崩れるシュヴァルの背中が寂しい。
シュヴァルは建築技術について問われた際に「木々や鳥が教えてくれる」と繰り返していますが、劇中の自然はまるでマリー・アントワネットの隠れ家のような美しさ!映画全体を通しても常にほの暗さが漂っていて(特に家の中のシーン)、それが自然の美しさと対極にあって、種類の違う絵画を何枚も見ているかのような感覚に・・・。生きることに不器用な一人の人間が頑固に貫き続けて実現させた夢物語、本当に美しいフランス映画を見せて頂きました。
写真は映画館に飾ってあった模型。来週は銀座で『再会の夏』を鑑賞予定です。年内ラスト映画になるかな。