『ヒトラーのための虐殺会議』を観てきました。

『ヒトラーのための虐殺会議』を観てきました。

昨秋に日本公開を知り、とても楽しみにしていました。リニューアルオープンした恵比寿ガーデンシネマへ。

こちらの作品は、いわゆる「戦争映画」ですが、目の前で人が死んだり、ドンパチするシーンはありません。ですが、淡々と人の死について検討し、話し合いが進んでいく、ある種の静かな恐怖がずっと画面に横たわっています。また、史実の資料を基に作られているので、ある程度この時代のドイツの戦況であるとか、政治の主要人物を知っているとより楽しめると思います。こういう社会的な出来事をシニカルに切り込んでいく(切り刻んでいく?)ドイツ演劇が私は大好きです。

映画の舞台は1942年1月。当時のドイツの国政と軍事を担う官僚15名がヴァン湖(ヴァンゼー)のそばにある邸宅に集められ、「ユダヤ人問題の最終的解決」について話し合うことになります。その時間、わずか90分。

耳触りの良い独特の官僚用語をフル活用し、誰かが怒鳴り散らしたり慟哭したりすることもなく、程よい愛想笑いやジョークを交えながら、淡々と会議は進んでいきます。制服組と背広組、同じ組織の中でも食い違う意見、自分の組織の意見だけは絶対通すぞマン、出世レース、突然ぶっ飛んだ方向に話をもっていく目の上のたんこぶ、職場環境の改善・・・。

とても1940年代の話とは思えず、議題だけ変えれば現在の会議と何ら変わりないのでは?と思うような場面も多々。まるで会社の中長期計画でも話し合うのかの如く、一民族を理不尽にこの世界から抹消しようとする計画が淡々と進められていきます。会議に来た人の中に「最終的解決」の意味が何だかよくわかっていない人がいるというのが、皮肉というか悲劇というか・・・。狂い暴走する集団の中で、いかに自分の感覚の中に生まれる「おかしさ」を感じ、それを握りしめて貫いていくことがこれほど難しいのかと、嫌でも感じさせられます。

湖畔にある邸宅をイメージした室内美術は重厚な美しさがあります。一方で、映画には不可欠と思われる音楽は一切ありません。この潔さも素晴らしい(特にエンドロール!)。日本人とドイツ人は気質の点で類似するところが多いとも言われていますが、この会議を見る限り、それはあながち間違いではないと感じます。多くの日本人に見てほしい作品です。

landlady
お芝居をしています。寄り道と道草ばかり。お時間がある時にふらっと覗きに来ていただければ嬉しいです。